瀬戸内海のスナメリには、「35」の呼び名があります
見守る会が拠点としている牛窓では、昔からスナメリは「ナメソ」と呼ばれたり「ドゲンソ」と呼ばれたりしています。「スナメリ」というのは標準的な和名ですが、地元の年配の方と話しをすると「スナメリ」では通じないこともあります。地域固有の呼び名は、それほど地域社会においてまかり通っています。これは、牛窓に限ったことではなく、瀬戸内海のいろんな地域で見られる現象です。また、スナメリという生き物に限ったことでもなく、魚にも同じように地方名があります。たとえば舌平目を牛窓では「ゲタ」と呼びますが、広島や愛媛の方に行くと「レンチョウ」だとか「ゲンチョウ」などと呼びます。
瀬戸内海を飛び出すとスナメリを「スザメ」などと呼んでいる地域もあります。
瀬戸内海のスナメリの呼び名、一体全体いくつぐらいあるのだろう?
ついでに瀬戸内各地のスナメリの状況についても、いろいろ聞いてみよう!
ということで、見守る会では、2012年から2013年にかけて瀬戸内海に面する11県(和歌山県・大阪府・兵庫県・岡山県・広島県・山口県・福岡県・大分県・愛媛県・香川県・徳島県)にある133の漁村や港町を巡って、漁師さんや住民の方々から聞き取り調査を行いました。
このページトップの「呼び名マップ」は、この調査で作成したものです。
呼び名 | 使用地域数 | |
1 | スナメリ | 42 |
2 | ナメソ | 28 |
3 | ナメウオ | 16 |
4 | ナメ | 13 |
5 | デゴンドウ | 10 |
6 | デゴン | 7 |
7 | ナミウオ | 5 |
8 | ナベ | 5 |
9 | ナメクジラ | 5 |
10 | ナメット | 4 |
11 | ウミボウズ | 3 |
12 | ナメス | 3 |
13 | スナメリクジラ | 3 |
14 | ナメクジ | 2 |
15 | ナメノウオ | 2 |
16 | ナベツン | 2 |
17 | ゴソ | 2 |
18 | デゴンス | 1 |
19 | ドゲンソ | 1 |
呼び名 | 使用地域数 | |
20 | ナメスサン | 1 |
21 | ナメラ | 1 |
22 | ゴドン | 1 |
23 | ナメタ | 1 |
24 | ナベサン | 1 |
25 | フカ | 1 |
26 | ナメノイオ | 1 |
27 | ナメトコ | 1 |
28 | ナメツン | 1 |
29 | ナメダチ | 1 |
30 | ナベブカ | 1 |
31 | ナベウオ | 1 |
32 | デングイ | 1 |
33 | ゼゴン | 1 |
34 | ジョゴンドウ | 1 |
35 | ザボン | 1 |
人間の生活圏のすぐそばにいながらも利用価値がほとんどなかったために、さほど注目されることなく生息してきたスナメリに、これだけたくさんの地方名が存在しているということは、過去にその存在を無視できないほどの大量の個体が生息していたということの現れだと思います。
漁の対象としての記録がまったく無いスナメリですが、漁網を損傷させる、魚を散らす、などの理由から漁師には嫌われ者とされることも少なくなく、そういった意味から各地で漁業関係者を中心に呼称が与えられていったのかもしれません。この調査では、ヒアリングした方々の職業や年齢もお聞きしています。そのデータも合わせて分析すると地方名(標準和名である「スナメリ」以外の呼び名)を口にされた方のほとんどが漁師さんやそれに近い人で、一般の人や釣り人の多くは標準和名を口にされています。昔から市場に上がることが無かったため、海とは縁遠い暮らしをしている人々にまで固有の地方名が広がらなかったということなんだと思います。
もし、スナメリが食用に適していたら、どうなっていたかは分かりませんが、少なくとも認知度は今よりもっと高く、一般の人々まで地方名は浸透していたんじゃないでしょうか。
スナメリの利用に関しては、広島県竹原市忠海町で行われていた「ゼゴンドウ網代漁」が記録に残されています。ほかに、この調査中、詳細は不明ですがスナメリから油を採取して利用していたという話を聞くことがありました。しかし、食用利用の話は、今回の調査を含めこれまでにも一切聞いたことがなく、牛窓の古老の漁師によれば「戦後の食糧難の時代でもあれだけは食わんかった」と言うほど食用には適さないようです。
漁業関係者に限らず、昭和の初めからから10年代生まれの沿岸住民の人々に話を聞くと、ほぼすべての人が、たくさんのスナメリが船に併走し付いてきたことを昔話として口にします。現在の牛窓界隈の海からは想像しがたい光景ですが、多数残された地方名からも過去の生息の実態が垣間見えてくると思います。
それにしても、広いとは決して言えない瀬戸内海にこんなにたくさんの呼び名があるのは驚きです。わずか数百メートルしか離れていない隣接する島で呼び名が違っていたりすることもありました。おそらく交通手段が今ほど発達していなかった遠い昔、瀬戸内海は、海そのものと無数にある島々、早くて複雑な潮流などによりコミュニティーが細かく分断されていて、そういった細分化がスナメリの呼び名の細分化にもつながっているんだと思います。
この調査では、ほかにも同時に聞き取りしたことがあります。たとえば、「最近見たのはいつですか?」など。
この調査は、「平成24年度タカラ・ハーモニストファンド」の助成事業です。
タカラ・ハーモニストファンドのサイトで調査の報告書全文がご覧いただけます。興味のある方はぜひご覧ください。
呼び名調査は現在も継続中です。
調査隊が未踏の地は、まだたくさんあります。
特に点在する島々の多くは巡れていません。
もし、スナメリの呼び名について情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ見守る会までご連絡ください。
情報は、お電話もしくはこちらの専用フォームからお寄せください。
みなさまのご協力お待ちしております!!
「近所の調査やってみるよ!」というボランティアさんも、もし、いらっしゃったら調査資料一式お送りしますので、ぜひご連絡ください。